サトウ氏の解任理由に感じる「やらされる練習」の根深さ

こんな記事がありました。

目の前が暗くなった。日本バレーボール協会がゲーリー・サトウ全日本男子監督を就任1年で解任した問題で、男子バレーの衝撃的な現状を改めて見せつけられた。

なかなか辛辣な記事です。

だが、米国式の指導法は「心身とも自立したトップアスリートがそろったチームのバレー。日本には時期尚早だった」と荒木田氏。たとえば、決められた2~3時間の全体練習以外は自由に時間を使っていいといわれても、子供の頃から「やらされる練習」ばかりだった選手は何をしていいか分からなかった-と。

児童生徒の指導現場では今も、勝っても監督の指示に反するプレーをするとしかられる風潮がはびこっている-。羽牟(はむ)裕一郎会長は嘆く。そんな環境で育った選手に、サトウ監督の指導は響かなかった。そこまで日本の男子のレベルは低いのかと驚いた。

そんなことを今更言っているのか、と正直驚きましたね。そんなもの、サトウ氏就任時点で当然「分かっている」ことだと思っていましたから。これを解任理由にされたのでは、サトウ氏があまりに可哀想ではないですか。

「自分で考えて判断できる選手を作る指導を始める必要がある。指導者講習会のカリキュラムの全面改定なども考えています」と同会長。

今頃ですか...。記事にもある通り、あまりにも時間がありません。

選手が考える力を失っているのは、勝利至上主義から来る「やらされる練習」、いわゆる「スパルタ練習」が原因なのは明白です。ただこの日本バレーの(今となっては悪い意味での)伝統とも言える「やらされる練習」は非常に根が深く、指導者講習会のカリキュラムをちょっと見直したくらいでは何の解決にもならないと感じでいます。

ほとんどのケースにおいて、子どもが10人、20人と集まれば、全員が全員、バレーボール大好き、バレーボール第一、という訳にはなかなか行きません。特に競技人口が減っている現在では、あまりバレーボールが好きでないような子も、なんとか引き止めてチームに残ってもらわないと試合もできない、などという状況になりかねません。中には、親の都合で頻繁に旅行に行って練習を休む子や、親に言われて渋々バレーボールをやっている子などもいるでしょう。

そのような状況でも、指導者は常に勝利を求めます。何故なら勝利しないと周りに評価してもらえないからです。弱小チームの監督は、指導力がないと言われます。公式戦の会場を決める際なども、常に上位に名を連ねるチームの希望が優先されます。指導者は、自分の地位を守る為、発言権を得る為に、なんとしてもチームを勝利させようとします。

しかし先に書いたように、子ども達の能力やモチベーションは様々です。毎年毎年、能力もモチベーションの高い子が6人ないしは7人、揃うとは限りません。そうした中で、常に安定した結果を残そうとするから、スパルタ練習に走る訳です。

能力の低い子、モチベーションの低い子は、怒鳴りつけて練習をやらせます。「なんでできないんだ!」「どうしてお前はそうなんだ!」「お前は馬鹿か!」罵声が飛びます。最近ではさすがに見なくなりましたが、時には手が出ます。足が出ます。そうやって、チームの最低ラインを引き上げます。そうやって無理矢理、勝てるチームに仕立て上げて行きます。

また、勝とうと思えば練習時間が長くなります。他のチームよりも、長い時間ボールに触れば、それだけ上手になるというのはまぁ、当たり前ではあります。しかし子どものことです。他にやりたいこともたくさんあります。毎日毎日練習では、さぼる心も当然生まれます。練習中に手を抜くこともあるでしょう。すると指導者は、そこを埋める為に更に練習時間を延ばします。小学生でもとあるチームは、週6日、平日は夜の9時まで練習するところもあるようです。

そんなことをすれば、練習がいやになる子もいるでしょう。そういう子には、有無を言わせず罵声が飛びます。どんどん、子ども達は萎縮して行きます。指導者には何も言い返せません。恐いから。怒られるから。口答えすると罵声を浴びせられたり、懲罰ワンマンが始まったりします。プレー中にミスをしても同様です。

子ども達はいつしか、言われたことに「はい」「はい」と従うだけなります。指導者に怒られないよう、顔色をうかがいながらプレーします。ミスをするとまず、怯えた顔で指導者の顔を見ます。試合で負けそうになると、負けることよりも、負けた後に指導者に怒られることばかり考えてしまって、どんどん萎縮してしまいます。

そうやって、子ども達は「考える力」を失って行きます。

とは言え、このような指導者も少しずつ減っていると聞きます。しかし、私が見ている範囲でも、まだまだ根強く残っているようです。練習試合で選手に罵声を浴びせたり、練習に身が入っていないと怒って途中で帰ってしまうような指導者が。ついこの間もどこかで体罰が発覚して、指導者が資格を剥奪されたりしましたよね。

彼らの指導方針を、今すぐ変えなさい、と言ってもなかなか難しいと思っています。それこそ、指導者講習会のカリキュラムを見直すくらいではどうしようもないでしょう。

これらを変えて行くには、やはり新しい指導者がどんどん出てくるしか無いと思います。新しい指導者が新しい、スパルタでない指導法を実践すれば、子ども達や保護者らもそちらのチームを選択するでしょう。そうして自分のところに選手が集まらなくなれば、心ある指導者は自らの指導方針を改めるかもしれません。そうでなければ、淘汰されて行くのみです。

しかし現状は、新しい指導者が出てき難い状況にあると思います。私が知っているとある地域の小学生バレーなどは、既に練習場所の確保が難しいような状況になっていて、新しいチームを起こすというのはなかなか難しいです。運良くどこかのチームを受け継ぐようなことになるとしても、今度は指導者の資格を取る為のハードルが高かったりします。全国で年に数回しか、資格を取る為の講習会が開かれなかったりします。とある東京のチームの監督さんは、必要にかられ、仕方なく鳥取まで講習を受けに行ったと言っていました。

そんな感じなんです現状は。それを、6年後の東京五輪までになんとかできますか?ほんと、今更って感じなんですが。ただ、東京五輪に間に合わないとしても、その先も考えれば、これは本腰を入れて取り組まなきゃいけない問題であることに間違いは無いです。果たして具体的にどんな手を打って頂けるのか、楽しみではあります。指導者講習会のカリキュラム変更とバレーボール教室以外の何かが出てくることを期待しています。

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コメント

太鉄さんの意見には同意ですが、本当に代表男子選手が、自由にしたらいいと言われて、本当に何をしたらいいのか分からないってね…。信じられないというか、そこまでレベルが低くくないと思うんですがね…?

男子は詳しくないから、何とも言えないですが?

女子は中道選手が眞鍋さんにストップかけられるくらいに、自主練してたし、宮下、長岡、迫田選手などなど自分の課題克服するために、涙ぐましい自主練してました。

男子選手は、各々が自分に何を求められてるのか分からないって事ですかね?

なら、山村主将が先頭に立って、監督とコミュニケーションとれば済む事ですよね?

『やらされてる練習』を卒業できない選手が代表レベルにいるとは、信じたくないですね。

>ゆうさん

もちろん、この記事に書いてある、荒木田氏や羽牟会長の言っていることが100%真実とは限りません。
しかし公式に、それを理由に一年弱でサトウ氏は解任されてしまったというのは、紛れもない事実なんですよね。
協会の言っていることが真実なら、上に書いた通り、それを東京五輪までに改善するなんて無理な話だし、そうではなくて、そんな選手が実は代表レベルにはいなかったんだとすれば、サトウ氏の解任は不当であったと言わざるをえません。
ですよね?

だと思います。

う~ん?ゲイリー監督の一年目の結果に関しては、擁護する事は皆無です。

しかし、ゲイリー監督の人選ではなく、またゲイリー監督の目指すバレーに選手も協会も、戸惑いの方が大きく一年弱で浸透するのが厳しい事は私でも予想できるのですから、想定内だと思います。

色々な大人の事情が絡むのでしょうが、せめてヘッドコーチみたいな?降格人事とか、対応はあったのでは?と思います。
個人的には、ゲイリー監督の人選で、ゲイリーバレーの色が見えてから、判断してほしいと思いました。

最後に男女の予算も今までは平等にしてきたが、費用対効果を考えると発表し、男子にとっては逆風が吹く厳しい中で、監督を引き受けた南部さんも大変だと思います。

今の男子は、実質的に元サントリー監督の桑田さんと元新日鉄の小田さんが中心です。
そもそも、代表レベルの監督経験もないのですから、自分達が選んだ監督を守る事に徹して現場に口出さないように願いますとか辛口に書いてしまいましたが(笑)
女子は、荒木田さんと眞鍋さんとの関係も良好で、三屋さん、丸山さんと荒木田さんとは先輩、後輩の関係だからか?眞鍋さんの自由にできる環境に現状はあるようですが…。

> ゆうさん

「自分で考えて判断できる選手を作る指導を始める必要がある。」と言っている羽牟会長は、サトウ氏の続投に前向きだったようですね。
何か色々、下々の私たちには見えない力が働いているように感じているのですが。
サトウ氏自身の人選によるスタッフ・選手でどう変わって行くのか、観たかったです。
そしてそれはきっと、日本のバレーボールというものを根本的に変えて行ってくれるものだと思っていましたので。
本当に残念です。

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